家系ラーメン二郎

黄色い看板の下で、胃袋の覚悟を決める儀式はいつだって唐突に始まる。

今日の券売機には、見慣れない限定の札が誇らしげに収まっていた。「家系風」の四文字。

直系二郎の荒々しい聖域に、まさか横浜の血統を注ぎ込むとは何の冗談だろう。豚の獰猛な出汁に、あの黄金色の鶏油が本当に調和するのか。

期待半分、怖いもの見たさ半分。いや正直に言えば「まあ、企画モノの域を出ないだろうな」という冷めた諦めすら抱いていた。

大ハズレで麺を啜る羽目になる覚悟も、財布から千円札を滑り込ませた時点で完了していたのだ。

だが、朱色のカウンターにドンと置かれた丼から立ち上る湯気を吸い込んだ瞬間、疑念はあっさり霧散した。

結論から言おう。きちんとうまい。

表面に浮かぶ鶏油は決して浮足立つことなく、二郎特有の凶暴な豚骨醤油スープの懐にすんなりと溶け込んでいる。

レンゲを沈めて啜れば、舌先を直撃するのは紛れもない家系の芳醇なコク。

それでいて、喉元を通過する瞬間に暴れ出すのは、まぎれもない二郎の圧倒的な野獣感だ。

家系としての美味さと、ラーメン二郎としての美味さが、互いの領分を侵すことなく完璧に両立している。

想像以上だった。

事前の低い予想ラインを、軽々と、けれど気取りすぎない絶妙な塩梅で、わずかに超えていた。

その「わずかな超え方」がやけに心地よく、私は無心で極太の平打ち麺を胃袋へ送り込み続けた。

気づけば丼の底が見えている。所要時間、わずか九分。

自分としてはいつも通り、味わいながらゆっくり食べた。急いだつもりは毛頭ない。それでも九分だった。こなもんか。なかなかやるじゃないか。

冷水機のぬるい水を飲み干しながら、私は小さく息を吐いた。これはぜひ、またやってほしい。

――と、ここまで独白を重ねたところで、私はふと不安になる。直系二郎の渾身の限定麺に対して「きちんとうまい」だの「なかなかだね」だの、一体どの立場から審査員気取りで品評しているのだと、君に呆れられやしないだろうか。

「偉そうに上から言ってんじゃねーよ(笑)」と、鼻で笑われてしまうのではないか。

え? 誰に言われるかって?

君って誰かって?

君と言ったら、君に決まってるじゃないか。

今、現在進行形で、油ぎった私のくだらない食レポであるこの小説を、眉をひそめながら、あるいはニヤニヤしながら読んでいる、君だよ君!

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