言い訳屋

街外れの路地裏に、「言い訳屋」という看板を掲げた小さな店がある。

店主の老人は、客が抱えるあらゆる失敗に対して、完璧な「言い訳」を仕立てて売るのを生業にしていた。どんな無理難題でも、彼の手にかかれば不可抗力の悲劇か、高尚な理念のための布石へと早変わりする。

ある日の夕方、息を切らせた男が駆け込んできた。

「頼む、助けてくれ! 大事な取引先との契約締結の場をすっぽかしてしまったんだ。完全に寝坊だ。だが、正直に言えば即座にクビになる!」

男が差し出した分厚い札束を受け取ると、老人は静かに微笑み、カウンターの下から薄汚れたガラス瓶を取り出した。

「お安い御用です。ちょうど良い在庫がございます。これは『やむにやまれぬ人助け』の言い訳です。この瓶の煙を吸い込んでから謝罪に行きなさい。あなたの言葉は奇跡のような真実味を帯び、相手の怒りは感動へと変わるでしょう」

男は歓喜し、瓶の栓を抜いて白い煙を一気に吸い込んだ。

「ありがとう! これで助かる!」

男は勢いよく店を飛び出し、取引先へと急いだ。
応接室に飛び込むと、そこには鬼のような形相の取引先の社長と、自社の青ざめた上司が待っていた。

「申し訳ありません!」

男は頭を下げ、あらかじめ老人に吹き込まれた通りに語り始めた。道中で急病の老人を背負って病院へ運んだこと、身元引受人が現れるまで手を握り続けていたこと、自分の未来よりも目の前の命を優先せざるを得なかったこと。

声には熱がこもり、目には涙さえ浮かんでいた。煙の魔力は完璧だった。

話し終えたとき、社長は目頭を押さえていた。
「……素晴らしい。契約がどうだとか、目先の利益に囚われていた自分が恥ずかしいよ。君のような誠実な人間とこそ、我が社は手を組むべきだ」

上司も誇らしげに男の肩を叩いた。男は心の中でガッツポーズをし、胸を撫で下ろした。

だが、社長は静かにこう続けた。

「ついては君、その立派な行いを我が社の社内報と業界紙で大々的に紹介させてもらいたい。病院と、助けられたご老人の名前を教えてくれないか。ぜひ直接、お見舞いと挨拶に伺いたいんだ」

男の背筋を冷たい汗が伝った。

「えっ……いや、名乗るほどのことではないと、名前も聞かずに立ち去りまして……」
「水臭いことを言うな。命の恩人を探すことくらい、我が社の調査部を使えば造作もない。すぐに人を手配しよう!」

社長は受話器を取り上げ、楽しそうにダイヤルを回し始めた。
言い訳が完璧であればあるほど、その「真実」は周囲を巻き込み、現実の証拠を求めて男を追い詰めていく。

男は蒼白になり、胃を押さえながら、今夜もう一度あの路地裏の店へ行くための口実を必死で考え始めていた。

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